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【教育×ICT】電子化するだけの『GIGAスクール構想』に意味はない

第61回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■ただ電子化するだけでは意味がない

 原義的に「デジタル教科書」と呼んでいるが、文科省の呼び方では「学習者用デジタル教科書」となっている。「学習者」とは児童生徒のことで、つまり子どもたちが使うためのデジタル教科書ということだ。ここでは、デジタル教科書を使っていくことにする。
 デジタル教科書については、「学校教育法第34条第2項及び学校教育法施行規則第56条の5」で定められている。それによれば、「紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く)をそのまま記録した電磁的記録である教材」と定義されている。
 紙の教科書を、まるごとデジタル化したものしかデジタル教科書としては認められないということだ。これについて文科省は、ホームページで次のような説明を加えている。

「このため、動画・音声やアニメーション等のコンテンツは、学習者用デジタル教科書に該当せず、これまでの学習者用デジタル教材と同様に、学校教育法第34条第4項に規定する教材(補助教材)ですが、学習者用デジタル教科書とその他の学習者用デジタル教材を一体的に活用し、児童生徒の学習の充実を図ることも想定されます」

 デジタルといえば一般的に、動画・音声・アニメーションなどとの多彩な組み合わせの実現を想像する。紙では表現できなかったものの実現が期待される。そこから「GIGAスクール構想」で謳っていた、個々の資質や能力を確実に育成し、誰一人取り残すことのない教育を実現していく道が拓かれるはずである。
 しかし紙の教科書と変わらないのであれば、その可能性は狭まる。紙とデジタルの教科書で内容に変わりがないのなら、紙の教科書でも個々の資質や能力を確実に育成し、誰一人取り残すことのない教育は実現できるのではないだろうか。わざわざGIGAスクール構想など導入する必要などない

 デジタル教科書を「紙の範囲」に押し留めただけでは、GIGAスクール構想の狙いの実現は不可能ではないだろうか。本気で推進していくのならば、使用基準よりも、学校教育法第34条第4項の規定を改めるべきである。
 そうでなければ、ただ紙の教科書がデジタル教科書に置き換わり、子どもたちがパソコンやタブレットを眺めているだけの授業になりかねない。それをICT活用と胸を張れるのだろうか。

 GIGAスクール構想は、1人1台端末が前倒しになり、デジタル教科書の使用基準が廃止されることで前進しているように思えるが、実は、その歩みはかなり鈍い。そこに目を向け、「狙い」の実現に文科省が本気で取り組んでいくのかどうかを注視する必要がありそうだ。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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